ほとんどの時間を家で過ごしている。
無職ではあるが決して暇ではない。
専業主婦が忙しいみたいなものである。
では家で何をしているのか。
結構な時間、パソコンの前に座っているように思う。何か作業をしようと思った時、BGMがあった方がいいかなと考えて音楽を流したりしてみるのだが、だいたい失敗する。何に失敗するかというと、ほとんどの場合、曲に合わせて熱唱してしまい、いつの間にか作業の手は止まり歌うことに集中している。そんなわけでいつも作業は一向に進まない。
どうやら作業中に音楽を流すのは向いていないらしい。そういう環境では集中できないのだということがわかった。それでも無音なのもどうなのかと思い、考えた。そこで仮説を立てたのである。日本語の歌だからいけないのではないか。だってだいたい歌えてしまうのだから。いい仮説を思いついたもんだと自分に感心していた。
作業用のBGMを洋楽にしてみた。するとどうだろう。これがなかなかよくて作業がはかどる。ただここで問題なのは普段あまり洋楽を聴かないものだから流せる曲数が少ないのである。そんなのネット上のやつで流せばいいじゃないかと思うかもしれないが、そういったのを探すのがめんどくさい。iPodに入ってるやつをスピーカーから流したい。
曲数が少ないから新たに自分の気に入りそうなアーティストを探そうかとも思ったが、そんなことをいちいち調べるのもめんどくさい。結局少ない曲数で楽しんでいた。そもそもは作業に集中できればいいわけだから、曲なんて聴いているようで聴いていないようなものだ。
しかし問題はここから起こり始めたのである。
少ない曲数だからついに覚えてしまった。聴いていないと思っていたのに自然と覚えたのだ。人間の能力というのは恐ろしい。
するとどうなるかというと、当然のように歌い出してしまう。熱唱してしまうのだ。
また作業に集中できなくなってしまった。
ここでも対処法を考えたのだが、歌い出してしまう癖はどうやら抜けないということがわかり、いっそ無音の中で作業をすることにした。無音はダメだと思っていたんだが、これまた人間の能力というのはすごいもので、無音に慣れ集中できるようになっていった。
無音の中、作業をするようになったのだが、またもや問題が発生する。
上の階に住む住人である。
今住んでいる部屋に住んで、物音に悩まされたことはない。むしろわりと防音がしっかりしているようでうるさいなどと感じたことがない。それが突如、上の階に住む住人のくしゃみとせきだけが聞こえるようになってきた。ここまで響くのかとびっくりした。他の生活音はまったく気にならないのにくしゃみとせきだけが盛大に聞こえる。
なぜくしゃみとせきだけが聞こえるのかという疑問もあったのだが、もしかしたら自分の音も聞こえているのではないかということが気になり始めた。今まで音が響かないマンションなんだとばかり思い込んでいたから、何も気にせず生活していた。4年もの間だ。こういうことが気になり始めると作業が進むわけもない。もうとっくに作業に集中することは諦めている。それよりもだ。私の生活音は筒抜けなのか。どこまでが聞こえているのか。4年もの間快適に過ごしていたのに。近隣の迷惑など考えず生活していたのに。
それからというもの私は熱唱するのをやめた。歌い出してしまうのは癖だと思っていたのに、人間の能力というのは恐ろしいものである。私が熱唱する星野源が聴かれているのではないかと思うと途端に恥ずかしくなるのだ。
そんなこんなで熱唱するのをやめたから、音楽を流しても作業に集中できるだろうと思い音楽を流し始めたら、今度はじっくり歌詞を聴き込むようになった。
結局何をやっても集中できないのである。
どうせだったら「くだらないの中に
